Assisted Reproductive Technology

関連する生殖補助技術

関連する生殖補助技術

関連する生殖補助技術をご紹介します。

1.受精卵の凍結保存・融解胚移植

卵巣刺激法を行った場合には、受精卵が多く作られ、移植可能な胚もまた多くできる場合があります。近年、胚の凍結保存技術が急速に進歩し、凍結融解後の胚の生存率が飛躍的に向上しました。このことから、移植に用いなかった良好胚はすべて凍結保存しておき、有効的に利用することが可能となっています。
胚の凍結保存技術は、余剰胚の保存以外にも卵巣過剰刺激症候群発症時の胚移植回避や子宮内膜の状態、あるいはホルモン値の状態で胚移植に適さない場合などに有効です。
当院では、超急速凍結法(Vitrification法)で凍結を行っています。この方法は、従来実施されていた緩慢凍結法に比べて、融解後の生存率が非常に高い優れた凍結方法です。しかし、この技術は100%の技術ではありません。当院では、融解後に99%の胚が生存していますが、残りの約1%の胚は死滅することをご理解ください。
凍結保存期間は、採卵日から1年毎の更新制となっています。更新の連絡のない方は、廃棄となりますのでご注意ください。住所を変更された方は、必ず当院へのご連絡をお願いします。

2.精子の凍結保存

採卵当日に、ご主人がどうしても来院できない場合には、事前に精子を凍結保存しておき、採卵当日に融解して使用することが可能です。また、普段の精液検査で結果が不安定で良い時と悪い時がある場合には、良好な時の精液を凍結保存しておくことにより、より良い結果を期待することが可能です。ご希望の場合は、医師または看護師にご相談ください。
ただし、精子は胚と異なり凍結保存技術の研究が遅れており、凍結保存することによって、融解後の精子の生存率がかなり低下します。したがって、一般体外受精法が可能な精液でも、凍結保存し融解して使用する際には、顕微授精法になる可能性が高くなることをご理解ください。
このようなことから、できるだけ採卵当日に精液を持参されるか、ご夫婦で来院されることをおすすめしています。

3.孵化補助療法

胚はもともと透明帯と呼ばれる蛋白でできた膜で覆われています。胚盤胞まで発育した胚が子宮内膜に着床する際には、周りを保護している透明帯と呼ばれる膜を破り、胚自体が透明帯の外に出て子宮に着床するという現象が起こります。これを孵化と呼びます(写真参照)。透明帯が非常に厚い場合や何度か体外受精・胚移植法を施行し良好胚を移植したにも関わらず妊娠が成立しない場合には、この孵化が上手く行われていないことが原因の1つと推測されます。そこで、移植前に移植する胚の透明帯に対して、レーザー光を照射して透明帯の一部分を薄く、あるいは開口する操作を施し、孵化しやすい状態にすることを孵化補助と呼んでいます。
透明帯の処理の方法は胚のステージによって異なります。初期分割胚の場合には、透明帯の一部分を薄くする方法を選択します。胚盤胞の場合には、一部分を薄くあるいは開口する方法か、透明帯を完全に除去する方法を行います。
レーザー法は、他の方法と比べ薬品を使用しないために胚への悪影響が皆無となっていることが特徴です(図参照)。
詳しくは、医師または培養士にご相談ください。

4.SEET法(子宮内膜刺激胚移植法)

自然妊娠では、卵子と精子は卵管で受精し、分裂しながら移動して胚盤胞になるころ子宮内膜に到着します。卵管の中を移動中の受精卵は母体に信号を送り、子宮は着床する準備を始めると考えられています。近年、胚培養液中にも受精卵からの信号(子宮内膜胚受容能促進因子)の存在が明らかになりました。この培養液を凍結保存しておき、胚盤胞移植の2~3日前に子宮に注入し、受精卵の着床に適した環境を作り出すことを期待した方法です。

5.顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の子宮内腔投与

G-CSF(商品名:フィルグラスチム)の治療を開始しました。最近、着床時期の子宮内膜にG-CSFというサイトカインが多く存在することがわかり、着床に大きく関わっているのではないかという研究報告に基づいています。海外では実際に着床前の子宮内膜にG-CSFを投与したところ、子宮内膜が厚くなり、妊娠したという報告がありました。そこで日本でもいくつかの施設で行われ始めたところ、内膜が厚くなったという報告と、内膜は厚くならなかったけれど薄くても妊娠したという報告がなされました。実際、どのような機序で着床率が上がるのかは判明していませんが、内膜が薄くても着床するのは事実のようです。このような報告を踏まえ、当院でも凍結融解胚移植での内膜の薄い方や反復不成功例の方に対してこの治療を行っています。

G-CSFとは
サイトカインの1種で顆粒球産出の促進、好中球の機能を高める作用があります。サイトカイン(cytokine)とは、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達をするものをいいます。
顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte Colony-Stimulating Factor:以下G-CSF)は、国内で承認を受けた薬剤(顆粒球増加作用)で、注射剤として広く日常の診療に用いられています。主にガン化学療法による好中球減少症や再生不良性貧血に伴う好中球減少症に用いられています。
G-CSFの適応
胚移植で妊娠の可能性を高めるためには、厚さ7mm以上の子宮内膜が必要であることが知られています。ホルモン補充下凍結融解胚移植周期では、子宮内膜をこの厚さにするために、月経開始後からエストロゲン製剤を使用していただいています。しかし、患者さまの約1%はエストロゲン製剤を使ってもこの厚さに届かず、胚移植を延期せざるを得なくなります。これまでに薄い子宮内膜を改善するべく、いくつかの薬剤が試されてきましたが、いずれも十分な効果をあげているとはいえませんでした。
胚移植の2~9日前にG-CSF製剤を、子宮内腔に1回投与することによって子宮内膜の厚さが改善し、その結果妊娠率が大幅に向上したことが米国生殖医学会雑誌に報告されました。この報告を受けて、不妊治療領域で胚移植時に子宮内膜が厚くならない症例や反復不成功例に使用されています(子宮内膜が7mm以上の厚さに到達せず、その結果反復して胚移植が延期となった経緯を持つ方、反復不成功例の方が適応となっています)。
効果
G-CSFの使用により、子宮内膜が厚くなって妊娠したという報告や反復不成功例で妊娠したという報告がありますが、本法により確実に妊娠するとはいい切れません。
安全性
G-CSFは血中半減期が5~6時間と分解・代謝が早いため、数日後に移植した胚への影響はまず心配いりません。これまでに本製剤使用による副作用や、ヒト胚および胎児への先天異常の報告はありません。
当院では、以下の条件を満たす患者さまに対してG-CSFの子宮内腔投与を行います。
融解胚移植周期のエストロゲン製剤使用では子宮内膜が厚くならない方
治療の趣意と必要性を理解した上で、書面にてご本人の同意をいただける方
反復不成功例の方
費用
本製剤を用いての治療は、胚移植費用とは別に27,500円(税込)必要となります。
※同意書の提出が必要となります。