About Infertility

不妊症・不育症

不妊症について

不妊症は、妊娠を希望する健康なカップルが避妊せずに性交を続けても、1年間妊娠しない状態と日本産科婦人科学会により定義されています。この期間は一般的な基準で、6回のタイミングで妊娠しない場合、以降の妊娠成功確率は20%未満とされます。現代では約6組に1組のカップルが不妊の問題を抱えており、妊娠を望む年齢の上昇がこの割合を高めています。

米国産婦人科医師会や米国生殖医学会からの提言では、「35歳以上の女性は6ヵ月を過ぎても妊娠に至らない場合や、月経異常、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣手術や骨盤内感染症の既往などのリスク因子を有する場合は、早急に検査と治療を受けるべきである」と強調されています。これは女性の年齢が不妊や流産のリスクを高めるためです。
不妊の原因は多岐にわたり、男性側約40%、女性側約52%という統計があります。原因は一つに限らず、男女共に影響を持つことも珍しくありません。結婚して1年が経過しても赤ちゃんができないカップルは、不妊症の検査を受けることで問題の解明と解決の一歩を踏み出せるかもしれません。

不妊症の原因

不妊症の治療は、その原因や以前の治療歴によって変化します。初期の段階では、夫婦共に不妊の原因を特定するための検査が重要です。この原因が明らかになれば、それに基づいた個別の治療が進められます。

主な治療手段として、まず排卵のタイミングを予測し、妊娠しやすい時期を把握する方法が中心となります。次に排卵誘発剤の使用や人工授精法などの進展した治療法が適用されます。

もし、これらの方法で妊娠に至らない場合には、体外受精法が推奨されることが一般的です。しかし、個人の治療歴や特定の不妊原因に応じて、体外受精法が早期に行われるケースも存在します。

このプロセスを通じて、専門医のガイドラインに従い、各カップルに最適な不妊治療のスケジュールが提供されます。

女性側の原因


1.排卵因子

規則的な月経のある女性の場合は、月経の約2週間前に排卵が起こります。排卵とともに女性ホルモンの分泌が変化し、その影響で子宮内膜も妊娠に向けて準備をします。妊娠が成立しなければ子宮内膜は剥がれ落ちて月経になります。

しかし、月経のような出血があっても排卵があるとは限らず、排卵がなければ妊娠は起こりません。排卵が起こらない原因には、脳にある視床下部と下垂体と呼ばれる器官からのホルモン分泌の異常(極度の肥満、過度なダイエットによる体重減少やストレスも原因となる)、甲状腺疾患などの病気や、多嚢胞性卵巣症候群などの病態があり、これらの場合は原疾患を治療したり、排卵を起こす治療をしたりします。

また、40歳前に閉経が来てしまう早発卵巣不全(早発閉経)の方もいます。また、乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンが高いと男女ともに不妊症の原因となります。

成熟した卵胞が破裂しないでそのまま黄体化してしまう、黄体化未破裂卵胞症候群では、基礎体温表も2相性になりきちんと排卵したように見えますが、実際には排卵が起こっていない状態で、毎周期にこの症状がある場合には不妊症になります。

2. 卵管因子

卵管は精子が卵子に向かい、受精した卵(胚)が再び子宮に戻るための通路です。卵管が炎症などによって詰まっていると妊娠は起こりません。

卵管炎や骨盤腹膜炎の原因となるクラミジア感染症は、ほとんど無症状のうちに卵管が詰まってしまいます。また、子宮内膜症により卵管周囲の癒着が起こり、卵管が詰まっている場合もあります。卵管内に水が貯まる卵管留水腫がある場合にも不妊症になります。

その他、卵巣から排卵した卵子を卵管内に取り込む卵管采の機能異常(ピックアップ障害)によっても不妊症になります。

3.頸管因子

子宮頸管は子宮の中と出口をつなぐ筒のような部分です。

排卵が近づくと子宮頸管の内部を満たす粘液が精子の貫通しやすい状態に変化しますが、この粘液の分泌が少なかったり、精子の貫通に適していなかったりすると、精子が子宮内に侵入しづらくなり妊娠が起きにくくなります。

4.免疫因子

人間には、細菌やウイルスなどの外敵と闘い自分を守るための「免疫」という仕組みがあります。

異物の侵入を容易に許容しないための大切な仕組みですが、ときに抗体といわれる免疫の力で精子を攻撃してしまうことがあります。精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)を持つ女性の場合、子宮頸管や卵管の中で抗精子抗体が分泌されることで、精子の運動性が失われて卵子に到達できないため妊娠は起こりません。

5.子宮因子

子宮筋腫や子宮の先天的な形態異常などにより子宮内膜の血流が悪い場合や、子宮内に過去の手術や炎症による癒着などがあると、子宮内に到達した胚がくっついて育つことを妨げて妊娠に至りません。

ただし、子宮筋腫や子宮内膜ポリープがあると必ず不妊症になるというわけではなく、その存在する場所や大きさによっては、妊娠が可能な場合があります。また、子宮内膜の機能異常(黄体ホルモンによる子宮内膜の反応性が悪い場合など)によっても不妊症となります。

男性側の原因


男性因子には、精液が排出されない(無精液症)、精子がない(無精子症)、精子数が少ない(乏精子症)、精子の運動率が悪い(精子無力症)、奇形精子の割合が多い(奇形精子症)などがあります。また、精子の数が多くても機能(精子の細胞膜や先体酵素)が異常な場合にも不妊症になります。あるいは、精巣内で精子が造られているにも関わらず、精管(精子の通路)が詰まっていて射精精液中にまったく精子を認めない(閉塞性無精子症)こともあります。


精子が存在する場合には、タイミング療法や人工授精法から治療をスタートしますが、精液所見により一般不妊治療が困難と判断される重度の乏精子症や精子無力症などの場合は、はじめから顕微授精法をおすすめする場合があります。
無精子症のうち精巣(睾丸)で精子が作られている場合は手術で精巣の組織の一部を採取し、精子をみつけて顕微授精法を試みます。


1.造精機能障害

精索静脈瘤で精巣内の温度が高くなっていると、精子の数や運動性が低下します。また、とくに原因はなくても精子が作られない場合もあります。

2.精路通過障害

作られた精子が通るための通路が途中で詰まっていると、射精はできても精子は排出できず妊娠に至りません。過去の炎症(精巣上体炎)などにより精管が詰まっている場合などがあります。

3.性機能障害

勃起障害(ED)、腟内射精障害など、セックスで射精できないことをいいます。一般的にはストレスや妊娠に向けての精神的なプレッシャーなどが原因と考えられていますが、糖尿病などの病気が原因のこともあります。

4.加齢による影響

男女とも、加齢によって妊娠のしやすさや妊娠する能力(妊孕性)が低下することがわかっています。女性は30歳を過ぎると自然に妊娠する確率は減り、35歳を過ぎると著明な低下をきたします。男性は女性に比べるとゆっくりですが、35歳ごろから徐々に精子の質の低下が起こります。

不育症について

不育症とは、「妊娠はするのに赤ちゃんがお腹の中で育たず、流産や死産を繰り返してしまう症状」をいいます。流産を繰り返す反復流産や習慣流産も不育症に含まれます。
日本において妊娠した女性の約40%に流産の経験があり、約4%が不育症と考えられると厚生労働省の調査で報告されています。現在、日本には不育症の方が2~3万人いると推定され、多くの女性が不育症で悩んでいます。


妊娠初期の流産の原因の多く(約80%)は赤ちゃんの偶発的な染色体異常とされていますが、流産を繰り返す場合には、その他に多くの流産のリスク因子をもっていることがあります。

リスク因子がある場合でも100%流産するわけではありません。リスク因子が不明な場合も半数以上あります。リスク因子は女性側にありますが、染色体異常では男女ともにリスク因子となります。

不育症の原因


1.染色体異常

胚(受精卵)の染色体に異常がある場合と、ご夫婦いずれかの染色体に異常がある場合とに分けられます。
流産、着床障害、胚の発育停止などの最も大きな原因は胚の染色体異常です。これは卵子と精子の染色体が異常状態で受精した場合に、細胞分裂の過程で異常が起こります。その確率は加齢に伴い増加するといわれています。性染色体異常やダウン症などの軽微な染色体異常であれば、妊娠が継続し出生することもありますが、重大な染色体異常の場合は、ほぼ100%流産することになります。


現在、着床前スクリーニング検査は一般的には認められておりません。
ご夫婦どちらかの染色体に、転座といって染色体の一部が他の染色体にくっついている異常があった場合、流産の危険率は高率となります。ただし、染色体異常で流産を繰り返しても出産に至る可能性はあります。染色体異常には治療法はありませんが、検査で異常の有無を調べることはできます。

2. 子宮形態異常

単角子宮や双角子宮などの先天的なものと、子宮筋腫やアッシャーマン症候群などの子宮腔癒着による後天的なものがあります。この場合、卵子が受精しても着床を妨げたり、着床しても発育を阻害してしまったりすることにより不育症となります。不育症につながる異常のほとんどの場合、超音波検査や子宮卵管造影検査により比較的容易に判明します。異常の程度によっては手術療法となります。

3.内分泌異常

甲状腺機能異常、糖尿病は流産のリスクを高めます。甲状腺自己抗体の影響や、高血糖による胎児の染色体異常の増加が関与しているといわれています。

4.血液凝固因子(血栓性素因)異常

プロテインSやプロテインCは血液が固まるのを防いでいて、これらが減少すると血液凝固が起こりやすくなり、血栓ができやすくなります。とくにプロテインS欠乏症は日本人に多いのが特徴です。血液凝固第Ⅻ因子は、血液凝固因子の1つで、欠乏すると同様に血液凝固が起こりやすくなります。このような血液が固まりやすい状態は、軽度であれば日常生活に何ら支障はありませんが、もともと血液が固まりやすくなっている妊娠中にさらに拍車をかけて血栓が形成されてしまうと、胎盤の血管は細いため血液循環が悪くなり、胎児に血液からの栄養分の供給が遮断されてしまい流産の原因となります。


血液凝固異常の治療法は、血液を固まりにくくする低用量アスピリン療法やヘパリン療法があげられます。低用量アスピリン療法(内服薬)は血液凝固に関与する血小板に対し、固まりにくくすることで流産予防効果を発揮します。ヘパリン療法(注射薬)はアンチトロンビンという物質に作用し、血液の液体成分そのものを固まりにくくする作用があります。低用量アスピリン単独療法かヘパリン療法を併用するかは流産歴や検査データなどを考慮して判断します。

5.抗リン脂質抗体異常

抗体とは本来外部からの侵入物に対し反応する免疫機能のことです。自己抗体は自分自身のタンパク質を異物として認識する抗体です。女性は男性に比べて自己抗体を作りやすいと考えられています。抗リン脂質抗体は、膠原病などの病気や不育症例の一部に認められる自己抗体で、リン脂質という細胞の膜などを構成する重要な成分を攻撃し、血管炎などを引き起こすことで血栓ができやすくなり流産につながります。

抗カルジオリピンβ2GPI複合体抗体、抗カルジオリピンIgG抗体、ループスアンチコアグラント、抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(抗PE抗体)などが知られており、当院の不育症検査で測定しています。治療法は血液凝固異常と同じく低用量アスピリン療法、ヘパリン療法などを実施します。また、漢方療法(柴苓湯など)を併せて行います。

6.抗核抗体

細胞の核と反応する自己抗体の総称です。膠原病など自己免疫疾患の1次スクリーニングとして最もよく行われる検査です。

7.NK細胞活性

NK(ナチュラルキラー)細胞は、血液中に存在し、癌細胞やウイルス感染細胞を攻撃・排除し、生体を守る細胞障害性リンパ球です。このNK細胞の働きが低い場合は、ガンや細菌、ウイルスなどの病気になりやすいと考えられています。逆に活性が高いと習慣流産や原因不明不妊との関連が指摘されています。流産の患者さまにはNK細胞の機能異常が認められること、機能異常の正常化を目的とした治療が着床不全や不育症に対する治療となる可能性があることが報告されています。NK細胞活性が高い場合にどうするかについての一致した見解は現在のところありませんが、NK細胞活性を低下させる方法はいくつかあります。


NK細胞活性を低下させる治療法としては、イントラリピッド療法とピシバニール療法が行われています。イントラリピッド療法とピシバニール療法は現時点で明確な科学的根拠は確立されていません。効果があるとする報告もあれば、有意な差はないという報告もあります。ただし、今までの流産予防が無効な場合、NK細胞活性高値の他に原因がみつからない場合は、これらの治療を試みる価値があると考えています。これらの治療は保険適応外のため自費治療となります。

イントラリピッド療法(点滴療法)

イントラリピッドは、精製大豆油と精製卵黄を主成分とする脂肪乳剤の点滴製剤です。一般的には、栄養不良の患者さまに投与します。習慣流産における脂肪乳剤の効果はまだ十分に明らかにされておらず意見が分かれますが、免疫作用への可能性はいくつか報告があります。高価でウイルス感染のリスクのある免疫グロブリン療法に代わる方法として各施設で行われています。

ピシバニール療法(皮下注射)

ピシバニール(OK-432)は化膿レンサ球菌をペニシリンと熱処理後に凍結乾燥した病原性のない菌体製剤で、抗ガン効果を持つ薬剤として広く治療に使われている皮下注射製剤です。ヒトに対する投与経験も多く、単独投与による重篤な副作用の報告はみられていません。子宮内の免疫状態を正常化させて着床障害や不育症を防ぐといわれています。夫リンパ球による免疫療法がアメリカFDAによる中止勧告となり、これに代わる治療法として位置づけられています。

8.Th1/Th2細胞検査

体外受精・胚移植法において、40歳未満の方が良好な胚(受精卵)を4回以上胚移植した場合は、80%以上の方が妊娠されるというデータがあります。良好胚を複数回胚移植しても妊娠が成立しない状態を反復着床不全といいます。この反復着床不全の主な原因としては、①受精卵(胚)の問題(染色体異常)②子宮内環境の問題(慢性子宮内膜炎やポリープなど)③受精卵(胚)を受け入れる免疫寛容の異常(血中ナチュナルキラー(NK)細胞活性、血中ビタミンD濃度、血中Th1/Th2細胞など)が考えられますが、ほとんどの場合は原因不明です。


以前から原因が明らかでない体外受精の反復不成功症例や、原因不明の不育症の患者さまの中には、受精卵(胚)や胎児に対する子宮内での拒絶反応が強く、着床後の免疫学的な受け入れが十分に行えないことが妊娠できない原因の1つとして考えられてきました。


最近の研究では、不育症検査に異常を認めなくても、血中Th1値が高い数値を示す症例が多いことが報告されました。Thとは、T細胞のことで、受精卵(胚)に対する子宮の受容性は、T細胞を介した免疫応答が担っています。T細胞は細胞性免疫(細菌やウイルスなどの排除)を誘導するTh1細胞と、液性免疫(抗体産生など)を誘導するTh2細胞に分類されます。正常妊娠では、胎児や胎盤を攻撃するTh1細胞が減少し、Th2細胞が優位になり妊娠が維持されます。半分が夫由来の受精卵(胚)を受け入れる女性の免疫寛容の機構が正常に機能することが妊娠にとって非常に重要となります。したがって、Th1値が高くなるほど胎児や胎盤を排除しようとして、妊娠の継続ができない状態となると考えられます。


血中Th1/Th2細胞の検査を行い、Th1/Th2比が10以上と高値の場合は、免疫抑制剤であるタクロリスム(プログラフ)を内服することにより、血中Th1値を下げてTh1とTh2のバランスをとります。子宮内での胎児や胎盤に対する拒絶反応を抑えることが、妊娠の継続を期待する治療法となります。


この検査は特殊検査となるため、事前に検査の予約が必要となります。