Fertility Tests

不妊治療の検査

不妊治療の検査

ここでは、当院で行う検査についてご説明します。下記の検査は、治療開始前に行います。これは、赤ちゃんができない原因を見つけることで、不必要な治療を省き、最も効率的に妊娠を達成するためです。もし、他院で以下の検査を半年以内に既に受けている場合は、その結果を診察時に持参してください。このような場合、当院で再度検査を行う必要はありません。
治療に伴う検査は、奥様だけでなくご主人も一緒に受けていただく必要があります。不妊治療は、ご夫婦での治療となりますのでどうかご理解ください。

まずは検査をして、原因をつきとめましょう!

不妊症の検査や治療には、少なくとも約1ヵ月間は時間を要しますので、不妊治療を専門にしている医師を受診されることをおすすめします。

途中で検査や治療に不信感を持つと、クリニックや病院を転々とし、結局、時間的なことはもちろんのこと、経済的、精神的な負担が増大してしまう可能性があります。これを避けるため、信頼できる医療機関で、夫婦と医師が協力して、余裕を持って不妊治療の道のりを進むことが重要です。
ただし、ここで特に留意していただきたいことは、すべての人の不妊の原因が特定できるわけではないということです。不妊治療は、大いに進歩していると認識されているかもしれませんが、それは主に生殖補助医療などの治療手段についてであり、検査方法はあまり変わっていません。したがって、不妊の原因を特定できるのは、まだ一部の場合に限られます。検査で何も異常がないと判断された場合、それは不妊の原因が未確定であるということを意味し、現在の医学では解明できない問題が存在することを含みます。

検査項目

1基礎体温表

基礎体温の測定方法
専用の婦人体温計を使用し、毎朝目覚めたらからだを動かさず、すぐに舌の下で温度を測定します(話すこともトイレに行くことも避けてください)。日付と月経周期をグラフに記入してください。月経量や月経痛の有無、不正出血の有無も記入してください。ただし、基礎体温の測定がストレスとなる場合は、無理に続ける必要はありません。基礎体温の測定なしでも診察は可能です。
基礎体温をつけると何がわかる?
排卵が起きると、卵巣には黄体ができて黄体ホルモン分泌されます。黄体ホルモンは、体温を上昇させるはたらきがあり、その結果、基礎体温は高温相になります。逆に、月経から排卵までは低温相となります。つまり、基礎体温表が低温期と高温期の2つの期間に分かれていれば、排卵が起きていると考えられます。排卵がない方(無排卵)の場合、基礎体温表は低温期のみとなります。高温期は通常約14日間続きますが、10日間より短い方は黄体ホルモンの機能が不十分と考えられます(黄体機能不全)。また、高温期が2週間以上続いている場合は、妊娠の可能性があります。さらに、月経と月経の間が40~50日以上ある場合は排卵していない可能性があります。

2クラミジア検査

クラミジア感染症は、20代~30代に多い感染症で、ほとんどが無症状です。これにより、感染が子宮の入口から腹部まで広がるまで、しばしば放置されることあります。これが卵管の周囲の癒着や卵管閉塞などを引き起こし、不妊症の一因となるケースが増えています。

3経腟超音波検査

初診の内診時に全例実施します。親指ほどの大きさの超音波を発信する器具(プローブ)を膣内に挿入し、子宮や卵巣の状態をモニターで観察します。超音波によって子宮や卵巣の情報、形態学的な異常(子宮筋腫・子宮腺筋症・卵巣嚢腫)の有無などが把握できます。また、排卵直前では、卵胞(卵巣内の卵子が包まれている部分)の計測が可能で、排卵の時期をほぼ正確に予測できます。さらに、実際に排卵したかどうかも卵巣の形態的変化を観ることで的確に診断できます。他にも、胚が子宮内に到達し、妊娠成立の最初の現象である着床を上手く起こしてくれるかどうか、子宮内膜を形態的に判断することが可能です。

4精液検査

男性不妊は不妊問題全体の30~40%を占め、精液の所見によっては治療レベルの考慮が必要となるため、きわめて重要な検査です。2~3日間の禁欲後に精子を採取し、精子の濃度や形態、運動性などを検査します。精液の所見は、日によって大きく変動があるため、2~3回程度繰り返して検査が必要となります。

5子宮卵管造影検査

女性側の一番多い不妊原因は卵管の異常です。不妊症の原因として、卵管因子は全体の約20~30%を占めています。以前に妊娠経験がある方であっても、1年以上経過している場合は続発性不妊症と考えて、検査を実施した方がよいと思われます。
この検査は月経終了後から排卵前の間に行います。子宮の入口から細いチューブを挿入し、造影剤の溶液を注入し、子宮の形状や卵管の通り道の状態や癒着の程度を確認します。卵管は卵子や精子の通行路であり、受精が行われる場所なので、卵管が詰まっていたり癒着があったりすると、妊娠に大きな障害となります。

6血液ホルモン検査

ホルモンの一般的な動きを理解するための検査は生理のはじめ頃に実施されます。当院では院内での検査判定が可能なため、体外受精刺激中など迅速な結果が必要な場合は、約30分で検査結果をお伝えできます。

脳下垂体から放出される二つの性腺刺激ホルモン(FSHとLH)が卵巣を刺激して卵胞の成長と排卵を促進し、同時に卵巣からエストロゲンとプロゲステロンを分泌させます。これらのホルモン値を確認します。正常なホルモンの流れに影響をおよぼす男性ホルモンや甲状腺ホルモンの測定も欠かせません。排卵が正常であっても妊娠を維持するホルモンが足りない場合は、支えきれず月経が起きてしまいます。排卵から1週間頃に卵巣から着床に十分なホルモン(プロゲステロン、エストロゲン)が出ているかどうかを検査します。

また、脳下垂体から排卵障害に関与する乳汁分泌ホルモン(プロラクチン:PRL)というホルモンの分泌が高まることがあります。ところが日中に測定したPRLの測定値が正常であっても、夜間に上昇して排卵障害や黄体機能不全を起こすことがあります。これを潜在性高PRL血症と呼び、TRHというホルモンを投与して、脳下垂体からのPRL放出の反応から異常の確認をするTRHテストを行います。

月経異常や排卵障害が重度の場合には、LH-RHを投与して脳下垂体の反応を確認し、問題の位置を特定するLH-RHテストが行われます。

性ホルモンについての話をもっと簡単に説明しましょう。以下に各ホルモンの主な役割を簡単に説明します。
FSH(卵胞刺激ホルモン)
これは、脳から出て、卵巣に行って卵の袋(卵胞)を成長させます。また、卵胞から出てくるエストロゲン(一種の女性ホルモン)を作るのを助けます。血液中のFSH値から、卵巣がどれくらいの卵胞を発育させる能力があるのかを予測できます。このFSH値が異常に高い場合、卵巣の機能が悪いことを意味しています。
LH(黄体化ホルモン)
これも脳から出て、卵巣に行きます。ここで成熟した卵子を放出させたり、卵巣内部で黄体と呼ばれるものを形成したりします。これのピーク時(最も多く分泌される時)を見つけることで、卵子が放出される(排卵する)時期を知ることができます。
エストロゲン(卵胞ホルモン)
これは卵巣の中の特定の細胞(顆粒膜細胞)から出てきます。卵胞期と呼ばれる時期(基礎体温が低い時期)に、子宮内部の膜を厚くしたり、卵が出てくる前に子宮の粘液を増やしたりします。
プロゲステロン(黄体ホルモン)
これは卵巣で卵子が放出された後に作られます。このホルモンは、子宮内膜を変えて、赤ちゃんがうまく着床できるようにしたり、子宮が緊張しすぎないようにしたりします。

黄体期(基礎体温表の高温期)のプロゲステロンの値より黄体機能を評価することができます。黄体機能不全は着床障害や流産の原因になります。
プロラクチン(乳汁分泌ホルモン:PRL)
これは脳から出て、主に授乳時に母乳を作るのに使われます。でも、これが多すぎると、男性でも女性でも子どもを作るのが難しくなることがあります。

女性では、PRLの値が高くなるのにしたがって、排卵障害、無月経、黄体機能不全になります。日内変動もみられ、日中の血液検査でPRL値は異常なしでも、実際には夜間や睡眠時にホルモン値が高い方もいます。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)および甲状腺ホルモン(T3・T4)
これらは脳から出て、甲状腺(首の前面にある腺)を刺激して、甲状腺ホルモンを作ります。これらのホルモンは体の基本的な動き(基礎代謝)に必要で、多すぎても少なすぎても、赤ちゃんを作るのが難しくなったり、流産のリスクが上がったりすることがあります。

7フーナーテスト(性交後テスト)

排卵の時期に、精子と子宮頸部(子宮の入り口部分)の粘液がどのように相互作用しているかを調べるテストです。性交後24時間以内に来院し、子宮頸部の粘液を採取して精子の数や動きを調べます。これにより、精子が子宮頸部の粘液の中でどのように動いているか、また粘液が精子を受け入れているかどうかを見ることができます。結果が良くない場合、精子が卵管(卵子と精子が出会う場所)に到達できず、受精が難しい可能性があります。その場合、再度テストを行うことになります。

8子宮内膜着床能検査(ERA検査)

これは反復性着床障害(何度も受精卵を移植しても妊娠しない状態)の原因を探るためのテストです。報告によれば、子宮内膜に受精卵が着床できるタイミング(着床ウィンドウ)が、個人によって異なることがあります。つまり、受精卵を適切なタイミングで移植することが重要で、ERAテストはそのタイミングを知るためのものです。このテストでは、子宮内膜の組織からRNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)を用いて236個の遺伝子を解析し、着床ウィンドウを明らかにします。なお、このテストを受ける際は、受精卵の移植は行われず、子宮内膜の組織を採取するため、出血や痛みが伴うことがあります。

ERAテストの結果は、「Receptive」(受精卵が着床可能)または「Non-Receptive」(受精卵が着床困難)のどちらかで表示されます。”Non-Receptive”と表示された場合、再度テストを行う必要があります。検査結果には、次回検査時の子宮内膜採取のタイミングの指示が記載されています。再検査の結果を確認することで患者さま個人の最適な胚移植時期を特定できるというのがこの検査の特徴です。

9AMH(アンチミューラリアンホルモン)検査

AMHはアンチミューラリアンホルモン(または抗ミュラー管ホルモン)の略で、「残りの卵子の数」と表現されていることが多いですが、AMHは「供給されている卵子の数」をあらわしています。専門書には「AMHと残りの卵子の数は比例します」と記述がありますが、何がどう違うのでしょう。
ヒトの卵胞は、原始卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞の順に発育します。
「残りの卵子の数」=「原始卵胞」、「AMH」=「一次卵胞、二次卵胞、前胞状卵胞」の顆粒膜細胞で産生されるもの、つまり原始卵胞から供給されて作られた卵胞で作られるものがAMHです。「現在供給されている卵子の数」が「現在育つことができる卵子の数」ですので、まさにその時点での卵巣の反応性(卵巣刺激して卵子がどのくらいとれるか)を現しています。
よく誤解されるのが、AMH値が低い=妊娠率も低くなると思われがちなことです。AMH値を測定していないから知らないだけで、実はほとんどゼロに近い数値でも自然に妊娠・出産している方はたくさんいます。要するに、AMHは妊娠率を語りません。卵の数が少ないということは妊娠率が低くなるということではなく、不妊治療をできる期間が限られてくるということを示すのであって、「AMHが低いからほとんど妊娠できない」ということではありません。
AMHは個人差があります。卵子は加齢に伴い減少しますので、原始卵胞が増加することはありませんが、月経周期毎に育ちはじめる卵胞数が異なるため、一時的にAMH値が増加する場合もあります。AMHの高値、低値は健康上何ら問題ありませんが、AMHが低下することは、すなわち卵子の残りの数が少なくなることを意味しています。おおまかに言えば、AMHの値が3.0から5.0ng/mlであれば安心でき、卵巣予備能は適正と考えられます。AMHの値が1.5ng/ml未満の場合、体外受精治療で通常の卵巣刺激法をしても十分な数の卵子が採れません。このような場合には、排卵誘発剤による卵巣の反応が悪く不妊治療のできる限界も次第に近づいていると考えられます。AMHの値が、6.0ng/ml以上ある場合には、多嚢胞性卵巣症候群が疑われます。当院では、体外受精法を施行する場合、採卵前にこの検査を実施させていただき、卵巣刺激法の選択基準の1つにしていますが、体外受精を受ける予定でない方も自分の現在のAMH値を知っておくことは治療の時間的猶予を知るためにも有用だと考えられます。
この検査は院内での判定が可能です。
AMHの測定は、測定方法の変化等により単位・数値も変更されています。また、個人差もありますので、AMHの値は卵巣予備能の目安とお考えください。
検査費用は自費で6,380円(税込)です。

10子宮内細菌叢(子宮内フローラ)検査

ラクトバチルス菌は、腟内の健康を維持する重要な役割を果たしていることがよく知られていますが、最近の研究では、子宮内の環境にも同様に重要であることが示されています。ラクトバチルス菌が子宮内で優位であれば、着床率、妊娠率、妊娠継続率、生児獲得率が向上する可能性があることが明らかにされました。

この発見に基づいて、子宮内細菌叢の検査と治療が一部の不妊治療で提案されるようになっています。特に、原因不明の不妊や反復流産、体外受精反復不成功例などで子宮内細菌叢検査を行うことで、治療成績の改善が期待される場合があります。

検査方法は次世代シークエンサーを使用して行われ、細菌のDNA配列を解読することで微量な細菌を検出することができます。治療においては、ラクトバチルス菌が少なく他の菌が多い場合に、その菌の種類に応じた抗生物質を使用することが一般的です。

しかし、このアプローチはまだ研究段階であり、十分なデータの蓄積やコンセンサスは得られていません。また、抗生物質治療にはアレルギーや消化器症状などの一般的な副作用もあり更なる研究成果がまたれます。