排卵誘発について

排卵誘発ってなんですか?



排卵誘発法は、特定の薬剤を使用して卵胞(卵子)の発育と排卵を促進する方法です。一般的には排卵に問題がある方だけでなく、妊娠の成功率を高めたいと考えている方にも行われます。


通常、自然の周期では1個の卵胞だけが成熟しますが、排卵誘発剤を使用すると、複数の卵胞が成熟する可能性があります。

これは体外受精の際に有用で、成功率を高めるためには欠かせない手段となっています。



排卵誘発の内服薬と注射薬の違いについて教えてください

 

排卵誘発剤には飲み薬と注射の2つのタイプがあります。

この両者の違いは、飲み薬の場合は自分自身のホルモン分泌に頼って卵胞を育てることに対し、注射薬の場合は薬の力によって直接卵巣を刺激して卵胞を育てることになります。どちらを使うかは不妊症の原因や治療経過をもとに適切に選択する必要があります。

 

*当院での採用薬:飲み薬(クロミッド、セキソビット、フェマーラなど)、注射(ゴナールエフ、フォリルモンP、HMGフジなど)



排卵誘発のリスクについて教えてください

 

排卵誘発は基本的には安全な治療法ですが、それでも他の治療同様に一定のリスクが伴います。

排卵誘発は世界的にも広く使われており基本的には安全な治療法ですが、それでも他の治療同様に一定の副作用が伴います。最も一般的な副作用には多胎妊娠と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。また使用する薬によっては、胃の不調や嘔吐、顔のほてり、乳房の不快感といった薬剤に関連する副作用も出る可能性があります。

 

このような副作用に備え、治療を受ける前には医師による十分な説明と確認が行われます。
少しでも疑問や不安に思うことがあれば医師にお尋ねください。こちらでは主に多胎妊娠とOHSSについて詳しく説明していきます。



排卵誘発で多胎妊娠が増える?

 

排卵誘発剤を使用することで、妊娠の可能性が高まりますが、双子や三つ子といった多胎妊娠のリスクも上がる点に注意が必要です。ここでは具体的な数値を用いて説明していきます。



どれくらいの頻度で多胎妊娠(双子または三つ子以上の妊娠)は増加するのですか?

 

自然妊娠での多胎妊娠率は約1%ですが、排卵誘発剤を使用するとその確率はかなり高くなります。特にゴナドトロピンという排卵誘発薬を使った場合、多胎妊娠の確率は約15-20%とされています。(生殖医療学会サイト



多胎妊娠となったらどうすればいいんでしょうか?

 

多胎妊娠となった場合、その後の妊娠管理には特に注意が必要となります。

 

例えば、妊娠高血圧症候群や切迫早産などお母さんへの負担が増える可能性や、赤ちゃんが早く生まれる(早産)確率が増加することがわかっており、それによって生まれた後の新生児の健康問題が起きる可能性も高くなります。

 

このように多胎妊娠には特別な管理が必要となることから、多くの場合は高次医療機関にてお母さんと赤ちゃん両方の安全を最優先した妊娠・分娩管理を行うことになります。



多胎妊娠を防ぐことは可能ですか?

 

多胎妊娠を防ぐために排卵誘発剤の使用方法の工夫が大切です。

内服薬による排卵誘発では2個以上の卵胞が発育することが少ないため、当院では内服薬を中心に外来治療を進めています。

 

注射剤が必要な場合には低用量漸増療法(通常の1/3から1/4の容量で開始し、徐々に増量していく方法)を使用して発育卵胞数を抑えることで多胎妊娠を予防しています。

 

また、排卵誘発に伴う多胎妊娠を防ぐために体外受精を考えることも一つの手段です。
この方法では、胚(受精卵)を1つだけ子宮に戻すことで、多胎妊娠のリスクを最小限に抑えることができます(ただし、一卵性双子の可能性は除外できません)。



卵巣過剰刺激症候群(OHSS)について

 

排卵誘発法に関するリスクとして特に注意しなければならないものに卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という病態があります。このOHSSについて説明していきます。



卵巣過剰刺激症候群(OHSS)ってなんですか?

 

女性の卵巣は親指大ほど(3~4 cm)の臓器ですが、その中の卵(卵胞)が不妊治療における排卵誘発剤で過剰に刺激されることによって、卵巣がふくれ上がり、お腹や胸に水がたまるなどの症状が起こることを卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と呼びます。

 

重症例では、腎不全や血栓症など様々な合併症を引き起こすことがあります。



気をつけるべき症状と対処方法について教えてください

 

OHSSは重症になると様々な合併症を来たし、とても危険な状態になる場合があるので、早期に発見して対応することが大切です。

 

薬によるOHSSは原因となった薬を中止することにより改善することが多いので、不妊治療中に「おなかが張る」、「はき気がする」、「急に体重が増えた」、「尿量が少なくなる」などの症状に気がついた場合は、速やかに医師・薬剤師に連絡して下さい。

治療中に下腹部の違和感、膨らみ、痛みなどを感じたら、すぐに医療機関で診察を受ける必要があります。これらはOHSSの初期症状である可能性

が高いです。
重症の場合には入院にて補液、アルブミン製剤点滴、腹水除去(腹水濾過濃縮再静注法を含む)、塩酸ドパミン静注等を行います。


 

当院では排卵誘発剤の使用方法の工夫(多胎妊娠の予防と同方法)とともに、重症OHSSの発症が予測される場合には、その時点で治療を中止(排卵を促すhCGの投与を中止)することでOHSS発症を予防しています。
体外受精胚移植の採卵後にはカバサール(OHSS発症予防薬)を服用し、5~7日後に血液検査と超音波検査を行うことでOHSSの早期診断を心がけています。

 

どんな人がなりやすいのでしょうか?

 

年齢が若い方、やせている方、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を持っている方は、OHSSになるリスクが特に高いとされています。これらのリスクの高い方は、慎重な薬剤調整と細かなモニタリングが必要です。



 

最後に

 

排卵誘発剤は一般的には非常に安全な治療法である一方で、リスクを伴うことも知っておかなくてはなりません。そのため治療を受ける方と医師が密にコミュニケーションを取り、治療内容と経過を共有していくことに努めています。



 

今回の記事の監修・執筆者

監修・執筆者

生殖医療統括部長
松原 寛和先生

医学博士
日本産科婦人科学会専門医・指導医
日本生殖医学会 生殖医療専門医
母体保護法指定医


『当院では皆様の不妊治療に関する問題に真剣に取り組んでいます。少しでも気になることがあればまずは気軽にお電話にてご相談ください。』